三重県鈴鹿市出身 四日市市在住。

松木 一真さん

左官職人

伝統を引き継ぐ左官職人舎『蒼築舎』2代目
土や漆喰等の自然素材を、壁やモノに仕立てている。
施工の他にライブペイント・展示など、全国・海外を飛び回っている。

父の松木憲司は、世界を股にかける左官職人

一真さんの父である松木憲司さんとは、どのような方なのでしょうか。

父はもう20年以上も前から「左官の技術でつくられた土壁の家を残したい。土や竹を使った日本の伝統技術を継承したい。」と土の良さを伝える活動をしています。土を使ったイベントの開催や、天然土を使い左官の技術でつくられた自社ブランドの商品開発をしていました。その腕を買われてドイツ・ベトナム・タイ・フランス・イタリアなど海外からも声が掛かるようになりました。
数々のプロジェクトを立て続けに成功させて、父は日本を代表する左官職人になりました。また、土壁の中でも、土を光らせる仕上げの〝大津磨き〟の達人としても有名になりました。

高校で建築科を、そしてその後、左官学校を選んだのもその影響ですか?

中学生の時はまだ左官を継ぐとは考えていませんでした。周りの友人が就職先を決めていく中、僕は人生でこれだということに出会わなかったんです。当時の肌感で「おそらく自分も左官職人になるんだろうな」とすごくふわっとした理由で、とりあえず建築科に進みました(笑)。僕が高校を卒業する時には左官学校は新潟県以外になかったので、入学を決意しました。そして雪の中ひとりぼっちで過ごしていましたね…。

竹小舞に土壁を施す『蒼築舎』代表の松木憲司さん(2020年撮影)

竹小舞を編む一真さん(2020年撮影)

左官学校卒業後は、どうされましたか?

卒業後は、新潟県内の会社に就職しました。こちらの会社で5年間修行をしたのですが、仕事内容は近代的なコンクリートがメインでした。これは今の生活を支える上で大切なことです。しかし、自分自身としては、時々行う土壁や漆喰などの伝統工法の仕事に惹かれ始めました。この経験があったからこそ、5年後には〝地元に戻って『蒼築舎』を継ぐ〟という決心はかなり強くなっていましたね。

土壁の伝統工法に惹かれ始めた

左官学校卒業後は、どうされましたか?

卒業後は、新潟県内の会社に就職しました。こちらの会社で5年間修行をしたのですが、仕事内容は近代的なコンクリートがメインでした。これは今の生活を支える上で大切なことです。しかし、自分自身としては、時々行う土壁や漆喰などの伝統工法の仕事に惹かれ始めました。この経験があったからこそ、5年後には〝地元に戻って『蒼築舎』を継ぐ〟という決心はかなり強くなっていましたね。

土への探究が、アートに繋がった

ご自身の最近の活動内容をお聞かせください。

土壁にもいろんな仕上げがあり、どのような技法を使いどのように施工したら壁がきれいに納まるかを私は知っています。それが左官職人としての仕事で、作品を作る時にはその上で〝土壁をどう生かしていったらいいか〟〝これ以上にできることはないか〟と夜な夜な追求を始めたんです。
そして作業風景や作品の動画も自分で撮り溜めて、それを配信していくうちに松阪屋さんから依頼をいただきました。そこから「アートだ」と言ってもらえるようになりましたね。自分的には〝土の探究・研究〟をしているというのがしっくりきますが、自分の頭の中にあるものを形にしていくことが、アートに繋がっているんだと思っています。

渋谷にある日本料理店の内装。カウンターと壁を仕上げた。

『London Craft Week』に出展し、ライブペインティングを行った。

松阪屋名古屋店創業410周年記念イベントでの展示。

三越創業350周年記念イベントでの展示。

最近では高級マンションの壁の仕上げに東京へ、統合する小中学校の壁の仕上げに長野へ、左官の技術指導で台湾へ行っていました。今までは父の名前で仕事の依頼が来ていましたが、今後はそういうわけにもいきません。〝依頼者のイメージを超えたら更に依頼が来る。〟そこを目指さなければならないんです

土壁の、その先を常に考えている

伝統と現代=「土+デザイン」壁

土壁の施工時に、デザイン性も叶えることには時間をかけています。そして、その工程を動画に撮り、世に配信して魅せる。自分でこれくらいしないと土壁の良さは、たくさんの人に伝わっていかないのではないかと考え始めました。仕事の依頼は工務店から来るのが一般的だったんですが、だんだん設計士さんからもご依頼いただくようになりました。最終的には個人のお客様から「この職人さん」と指名してもらい、案件を獲得できればいいと思っています。
左官職人が少ない中、父が「土はいいよ」と謳うようになり、更に土壁を自分がデザイン的に魅せていく。土壁のその先を考え続けて突っ走っているうちに気が付いたらこんなことになっていました…(笑)。松阪屋創業410周年の展示依頼も、このような場で見てもらえるなら是非やろうとの思いで引き受けて、夜間に一人で仕上げていました。昼間は現場での作業がありますし、事務所の横に探求するための作業場『土のLABO』を建築中でしたので、それが重なり夜しか時間が取れませんでした。昼間は作業・夜はアート…と、今思うと私という人格とは別の人格が作品を作り上げていたように思います。

土壁という土台の上に軸を何本も立てていく

〝土壁〟という土台さえしっかりしていれば、軸はブレても良いと思っているんです。上に何を立てても良い。むしろ軸はたくさんあったほうがいい(笑)。何を立てるかは自由です。
その考えに行き着いたのが4年ほど前だったので、僕はそこから多方面へ進んできたんだと思います。

価値を継ぐ使命

土壁の可能性を常にアップデート

一真さんのこれからを教えてください。

父の学生時代は、就職先として建築現場に入るきっかけが身近にありましたが、現在では選択肢が広がり現場に入ってくる人が少なくなっています。ですので、業界が厳しくなったとしても、やりたいと思える子がいた時は父は積極的に雇用するようにしていました。受け入れ先自体が減っている中『蒼築舎』は今も見習いを雇っています。それが土壁の価値を引き継いでもらうことに繋がるからです。
ですので私は〝この仕事、面白そう〟と興味を持ってもらえるキッカケを作ることに必死です。伝統的な土壁の良さを知っている方はもちろんいますが、時代が変わるに連れてニッチなものになってきた今、改めて土壁の良さを皆さんに知っていただきたいですね。
先日も台湾の金門島の職人からの依頼で技術を指導してきました。このように日本の技は世界においても一目を置かれています。
私の目標は土壁の古き良き文化を継承しつつ、現代そして未来へと価値を繋げていくことです。アートもその一つですね。土壁の可能性をアップデートしていき、いつか土壁がポップカルチャーの一部になる日を信じて今後も一歩ずつ前進していきます。

INFORMATION

伝統を引き継ぐ左官職人舎 『蒼築舎 株式会社』

住所 三重県四日市市浜一色町16-35
Tel 059-332-1444
Website tutikabe.net
Instagram @kazu.gon
※情報が変更になる場合がございます。詳しくは、各HPやSNSでご確認ください。