ひらのりょう

アニメーション作家|漫画家

1988年埼玉県春日部市生まれ。長野県富士見町在住。
産み出す作品はポップでディープでビザール。文化人類学やフォークロアからサブカルチャーまで、自らの貪欲な触覚の導くままにモチーフを定め作品化を続ける。
フルカラーコミック「FANTASTIC WORLD①・②」がリイド社より発売中。アニメーション作家として国内外多数のアニメーション映画祭に参加。NHK「みんなのうた」アニメーション制作。
劇団ロロの公演「はなればなれたち」では俳優として参加。最近は編み物教室に通っている。

HP : ryohirano.com
Instagram : @hira_ryo

Q1 ひらのさんが作り出す作品は人体の構造に関するようなものが多い印象ですが、ご自身の作品に落とし込んだきっかけはありますか?

ひらの 大学を卒業して一、二年ぐらいの時は外を歩いて面白いなと思ったことをメモをする習慣をつけていましたね。その後無意識で何を面白がっているかを自分なりに分析して、「こういう部分を自分は面白がっているのかな」と考えながら作品のモチーフ選びをしていました。外を歩いていると歯医者さんの看板が多くて、歯に顔が書いてあるものが多いじゃないですか。

石川 たしかに歯がキャラクターになってることが多いですね。

ひらの そこで〝歯〟のキャラクターの可愛さに気づいて写真をたくさん撮りました。そして「なんで歯のキャラクターが可愛いんだろう」って考えると、人体の構造物を擬人化しているっていう入れ子構造が面白いなってことに気づいたんですよ。歯のキャラクターの歯の中はどうなってて、その歯の中は・・・。って考えるだけで頭がぐちゃってするようなその変な感じが面白いなって。気になったら調べたくなる性格なのでこの時は歯の文化史や考古学の本、人類学にまつわる本などを買い漁って勉強しました。そこから作品に使えるぐらいに知識を落とし込んでいくという感じですね。

石川 心臓がモチーフの作品などもありますが同じような考え方ですか?

ひらの 他のモチーフに関してはどうして自分自身が作品に使いたがっているのかはいまいちよく分かっていない部分もありますね。言語化しきれていない部分だからこそ気になるし、興味を惹かれるんだろうなって感じます。

石川 外を歩いてると擬人化されてる看板が多いですよね。

ひらの 擬人化でいうともう一つ思っていることがあって、髪の毛は自分自身であるけれども、落ちている髪の毛って自分とは意識がかけ離れたものになるじゃないですか。「かつては自分だった」みたいな。自分自身の構造が変化していくもの、人体と人体。自分自身から少しかけ離れたものになる距離感はずっと興味がありました。それも体の一部がキャラクターになることのきっかけの一つになっていると思います。わからない気持ちをいろいろな工夫をしてこれだと人がどう感じるかみたいな実験をやっているという部分はありますね。
石川 今まで自分の意識がどこまでかっていうのは考えたことがなかったですね。

ひらの そうですね。物の見方によっては、例えば宇宙人から見たら人間って全部同じ一つの生き物に見えているかもしれない。みたいな・・・。考え方次第ではこういうところまで広がっていくのが人体のキャラクターをつくる理由なんじゃないかなと思っています。

Q2 長野に移住した理由や町の 人たちとの作品づくりの お話を教えてください!

ひらの 移住のきっかけはコロナですね。僕自身が疲弊していた時期というのもあって、私のパートナーの友達がたくさんいる長野県富士見町という場所に移住しました。生活を過ごしていくうちに歩いて行ける距離に商店街があることを知り、行ってみるとそこでは地元の人だけではなく移住してきた若い方達がいろんなお店を構えていて古本屋さんがあったり、展示をしている場所があったり、最近では貸しスペースでライブやってたり。面白い人たちが集まって面白いことをする場所が、たくさんあるんですよ。

石川 すごいアットホームな感じなんですね。

ひらの 小さい町でギュッとしているので商店街に行けば知り合いに会える感じですね。町の人たちと習い事とかちょっとしたサークル活動のようなものもしています。たとえばお米を作ったり、短歌会、編み物、勉強会をしたりしてますね。

石川 どんな勉強会をされたんですか?

ひらの 最初はあれですね。じょうもん。

石川 じょうもん?

ひらの 縄文です縄文(笑)。富士見町は縄文時代に栄えていた場所ですごく有名なんですよ。そこで井戸尻考古館(富士見町にある考古館)の館長さんをお呼びしてレクチャーしてもらい土地のことを勉強しましたね。あとは有名なアーティスト松澤宥が諏訪郡出身で、その方の研究をされている方をお呼びして話を聞いたりなど移住してきた方たちで富士見町のカルチャーや歴史を勉強するみたいなことをやっています。

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移住生活で始めた編み物、
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Q3 あみぐるみの個展お疲れさま でした!なぜ、あみぐるみを始めたのか?また、このあみぐるみたちの誕生秘話などはありますか?

ひらの そうですね。僕は、映像もイラストもデジタルでずっと作っていて、アナログで売るということをほとんどやったことがなかったんです。そこで実際に、存在する物をつくるってことが出来ないかなと思っていたタイミングでAIが普及してきたので、いよいよ何かさわれる物をつくるスキルを一つ持っておきたいなって思いました。その時に編み物の先生と出会って、冬の間編み物教室を開いてほしいとお願いしたら快く引き受けてくださり編み物に興味がある町の人を何人か集めて毎週編み物を教えてもらいました。

石川 町の人たちと冬の間編み物するってとてもほっこりしますね。

ひらの 僕以外、みんな女性だったので男性もやればいいのにと思いつつ(笑)。編み物は素朴なんですけど、自由に立体表現ができることに気が付いて、武器にしていきたいなとあみぐるみを始めたのがきっかけです。その頃、同じタイミングでblenderというフリー3DCGのソフトを勉強していて、僕自身立体をつくる感覚を持っていなかったのであみぐるみと3DCGとでいい感じにスキルアップに繋がったなと感じます。

石川 あみぐるみたちの誕生秘話はありますか?
 
ひらの これを作っているタイミングで〝Samurai GUNN〟というゲームをつくっている、ネルソンというアメリカの友達が友達を連れて日本に遊びに来ていて、その方がペンデルトン・ウォードさんという海外では誰でも知っているアニメーション作品「アドベンチャータイム」を企画から作った方だったんですよ。その二人が僕の家に来ることになって 10日ほど一緒に過ごしたのですが、彼は泊っている間ずっと何かを創作していてその姿に刺激を受けましたね。その中で色々お話をして、僕が「今編み物をしていてオリジナルキャラクターシリーズでつくりたいんだけど、そのシリーズの名前が欲しい」と話したら今制作しているあみぐるみのタイトル”YARN FOREST”って名前を付けてくれました。

石川 色々な人との出会いがありますね。

ひらの そうですね。移住してから出会いがたくさんあります。東京で会うより長野で会った方がスペシャルな感じがします。

石川 YARN FORESTという名前が付く前からキャラクター達の構想はありましたか?

ひらの 最初に20体ほど考えていました。でも実際作ってみると、思っていた形にならなくてその都度直して、そのうちもっとかわいいデザインになって帰ってきたり。変な形をしたキャラクターをたくさん作りたかったので編み物のスキルを勉強しながらという感じですね。だから途中でキャラクターが変わったりは結構ありますね。でもその分キャラクター一つひとつに名前を付けてプロフィールを書いてあげるのがすごく楽しくて。

石川 YARN FORESTの一つひとつのキャラクターに短編物語が付随しているぐらい構想がしっかりしていてとても面白かったです。普通の動物でないモチーフを選んだ理由は何ですか?

ひらの 例えば動物をもとにこれをつくろうとか植物をモチーフにつくろうとかではなく、とにかく手で形を書いてこんな形だと可愛いかなって考えながら作り始めてますね。
キャラクターが出来上がった後に名前と設定ストーリーをつくるっていうのを一気にしてます。とにかく変な形のキャラクターをつくりたいですね。ストレートじゃないズレたちょっと癖のある設定をあげたくて。

石川 私、バロバロが可愛くて好きでした。

ひらの ありがとうございます。バロバロは、めっちゃいい声で鳴くんだけど実はすごい残酷。みたいなちょっと距離感があって、そこを面白がってくれたらってストーリーを書いてます。全キャラクターが繋がるんじゃなくて、少しずつ繋がってくれたらなって。

Q4 クリエイトするうえで大切にしていること、大切にしていきたいことはありますか?また、制作で苦労するのはどの過程ですか?

ひらの 特別なことをやっているとは思っていないので、他の仕事でも同じで楽しくできるように考えるっていうことが一番ですね。自分の気持ちが乗るように、乗れないことはなるべくしないようにしています。
あとは、何事にも言えますが、人が無意味に傷つかないようにすることを考え続けたいですね。でもそれは実態を勉強し続けていかないと無意識に傷つけてしてしまうことがあるので常に情報を入れられるようにしていきたいなと思います。物をつくるうえで、この表現が大丈夫かというのを一つひとつ精査していくのは時間がかかるので、そういう部分は苦労するのかもしれないですね。それ以外には、この服装が歴史的に合ってるのかなどできる限り下調べするようにしてます。自分でさぼらなかったという状態で世に出したいですね。大変だけど知ることは楽しいので。
どんなに注意しても間違えることはあると思っているので、修正できる勇気や謝れる心構えを持っておきたいと思いますね。なるべく自分の中で納得できていないと楽しくつくれないので、リサーチや事前に自分の中で物をつくる上での順序を立てたり、理屈を固める作業をしたりっていうところをバランス良く考えながら制作してます。あとお披露目する瞬間が一番きついですね(笑)。

石川 そうなんですか!意外です。わくわくとかじゃないんですか?

ひらの わくわくはしたことないです(笑)。

Q5 常に新しいこと(ちぎり絵のアニメーションなど)に挑戦されている、ひらのさんですが、今後挑戦していきたいつくりたい作品はありますか?

ひらの 長野の貸しスペースで自主企画のワークショップをして、町の子どもたちや大人たちと一緒にちぎり絵のアニメーションをつくったというのは一つ自分の中では挑戦でしたね。今僕がやっている仕事がどういうものかを体験してもらってそのなかでアニメーションや、ものの見方が少しでも変わってくれたらうれしいし楽しいです。今後もちょこちょこやろうかなって思います。来月はジョージアでワークショップをやるんですよ。

石川 海外ですか。すごいですね。

ひらの 一人でカタコト英語で行ってきます(笑)。今後挑戦していきたいことは短編、長編のアニメーション、ゲーム、youtubeチャンネル、漫画…。そこまで手が回るかどうか(笑)。

石川 楽しみにしています。

Q6 今号のテーマが「まったり」なのですが、まったりしたいときは、どのような過ごし方をしてますか?

ひらの 散歩ですかね。特に長野だと季節の変化や天気の変化とかすごくわかりやすく、最近だと紅葉もすごく綺麗で。歩くと自然のものの情報量が多くて、すごく良いですね。全然まったりじゃないですね。意外と忙しない(笑)。うちの周りが田んぼや畑で視界がとても開けてるので、そっち側を歩いてますね。いつもと違う道をまったり歩くのが一番楽しいです。

石川 クリエイトするうえでアウトプットするヒントなどは得られたりしますか?
ひらの どちらかというとリセットに近いですね。編み物も同じで、やっていると余計な事考えなくて、そこだけぎゅっと集中できるので散歩と編み物ですね。編み物って最初に言うべきだったな(笑)。

石川 (笑)

Q7 最後の質問です。ひらのりょうさんのキニナル人を教えてください!

ひらの まんが家の花原史樹さんです。花原さんとは大学生の頃、映像監督の松本壮史さんと共に一緒に住んでいたハウスメイトです。それぞれ大学を卒業してバラバラだったんですけど、卒業後にまた集まって同じメンバーで住み始めました。
 
石川 めちゃくちゃ仲良しですね。

ひらの 僕がニュージーランドの高校を卒業していてあまり日本のカルチャーや漫画を知らなかったので色々教えてもらって、先生みたいな人です。あんな可愛い猫の絵を描きながらも実はすごく尖った作品を作っている人なんですよ。

石川 そうなんですか?そうは思えない絵のタッチですね。

ひらの 学生時代どんな作品を作っていたとかテレビの話とか漫画の話とか聞くと、たくさんお話が出てくると思うので面白い人ですよ。

石川 どんなお話が聞けるのか楽しみです!

イラスト/花原史樹

Information

編集 : 関谷 武裕
装丁 : 河野 未彩

FANTASTICWORLD➀➁
地球空洞説を大胆に取り入れて描かれる、人と人外たちの知られざる因縁と美しき景観。


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