芸術と共に生きる男
石坂 浩輔さん
絵描き/ヴィンテージ雑貨店『浮雲X』
1987年 愛知県豊川市生まれ、桑名市長島町在住。
名古屋芸術大学で彫刻を学んだ後、長島に移住するまでの7年間は、
住み込みの仕事をしたり海外に移住したりと、転々とする生活をしていた。
5年程前に、「しっかりと腰を据えて絵を描こう」と長島の一軒家を借りて本格的に絵を描き始める。
海外で転々とする生活をしていた時の話を聞かせてください。
学生時代に色々とこじらせた結果、心が曇ってしまった時期があります。靴はボロボロ、髪はボサボサ、尖った目で夜の街をジリジリ歩いていました。社会を恨んでいたのかもしれません。ビートニクと呼ばれる芸術を探求する生き方に憧れ、賃貸のアパートを解約して、転々としながら絵を描いたり詩を書いたり、音楽を作ったり、自暴自棄な意味での「なるようになる」で生活をしていました。外国人の家に居候したり、公園で寝たり、山奥の旅館で働いたり、ラブホテルの屋上の小屋に住み込みで働かせてもらっていたこともあります。そして、ふとしたことでタイに移ることになり、そこでもタイ人のストリートミュージシャンと一緒に旅をしたりして1年ほど家のない生活をしていました。金もなくあてもなくこの先も社会と交わらないように生きていくつもりでした。そんな中、タイの山奥のあるお坊さんの下で仏教修行をさせてもらうことになりました。それが僕をパチンッと変えました。目から怒りが消えました。俗世間との折り合いがついたのです。それから日本へ帰国するまでの半年ほど、少しでも社会の役に立つように生きようと山奥の学校で子供たちに音楽を教えたりして過ごしました。この頃に学んだ仏教の教えが僕の生き方の軸になっていて、世の中に必要とされる人間でありたいと思っています。
その後、長島に定住したのはなぜですか?
ちょうど何処かに落ち着いて絵を描こうと家を探している時、道で出会った露天商のおっちゃんが桑名の人で、今の家を紹介してくれました。
(そのおっちゃんの下、道でアクセサリーを売っていましたが何だかうまくいかず、イベントでアンティーク雑貨を売り始めたことが今僕がやっている店『浮雲X』に繋がります。)
石坂さんの絵の特徴は?
自分で自分の絵のジャンル分けをしたり、ジャンルに沿った絵を描こうとしたりはしてませんが、人に説明するときには『シュルレアリスム』という言葉を使います。心の奥底を写す絵です。普段僕らは、物事に対して、良いなぁとか嫌だなぁとか感情を持って反応しています。それが意識の上で知覚できる心の動きです。しかし、なぜそう反応したのか、その反応の根本はもっと心の深いところにあるのだと思います。できるだけ考えずに出鱈目を描くと、自分でも気付いていない心の奥の欲望とか悩みとかが具体的な事象として浮き出てきます。それをできるだけそのままキャンバスに描き留めています。
例えば、キャンバスの真ん中にうどんを描いたとします。ネギだけの素うどんです。うどんだけではさみしいのでテーブルを描きます。その背景の右側、少し遠い地面に思いつきでキジの剥製を置きます。木の台座の付いたやつです。キジの剥製には青っぽい狭い薄暗い部屋が合いそうですね。思い切ってうどんとテーブルを消します。残念。青い部屋の床にキジの剝製だけになりました。左側の壁に窓を描くとそれっぽくなります。曇りの夜空を描きました。いや、やっぱりキジがカラッとしてるのでそれに合わせて星がまばらな頃の夜空に変更です。窓の外に銀色の鉄塔みたいなのがあって、そっから明るい緑のビームみたいのが部屋の中にビーーって。そのビームは白い煙をだしながらコンクリートの床を焦がしつつこちらに近づいてきます。危ないっ!キジの手前の地面に寝そべったニヤニヤのおっさんの手に持ったドーナッツは煙をもくもく出しながら真っ二つです。
頭の中でこれを描き上げて壁に飾り、腕を組みながら眺めてみると、懐かしさや淋しさ、楽しさや虚しさ、いろんな感情が複雑に混ざって現れてきます。それがこの絵が作り出す心の動きです。年齢、性別、文化が違えど欲望だったり怒りだったりは人間みんな似たようなものだと思います。それが感情を作り出すのです。それを料理のようにそのまま味わってもらいたいのです。
無意識から出たものを無意識のまま拾ってもらえたら嬉しいです。
『浮雲X』とは。
絵を描いていくには金と時間がかかります。そこで!『浮雲X』をやっています。楽しいお店です!イベント、マルシェ等でヨーロッパの古いものを売ってます。直接ヨーロッパを回って買い付けた珍しいもの、面白いもの、美しいもの、なんでもあります! もうバチバチです!
石坂さんの今とこれからを教えてください。
僕は心の動き、仕組みにすごく興味があります。科学が発展してこの世界の仕組みが全部分かろうが、明日この世が急に終わろうが、机の隅で食べ残したチーズバーガーが冷めようが、最終的にそれが嬉しいことか嬉しくないことかを判断するのは自分自身の心だと思います。そして生きることとは心が反応するということなんじゃないかと思っています。今は絵を中心にやっていますが、彫刻、音楽、映像、文章、媒体はなんでも構いません。受け取った側が自分の心の動きを感じられるような芸術、心の動きを感じるための芸術を人生通してやっていきたいです。そしてそれこそが僕がこの世の中のために出来ることなのではないかと思っています。
INFORMATION
石坂浩輔
次回予定は2022年5月に中区金山の
ブラジルコーヒーにて開催予定。
url : shizakakosuke.com
Instagram : ishizakakosuke
mali:ishizakakosuke@gmail.com
ヴィンテージ雑貨店 『浮雲X』
世界中の美しいもの、面白いもの、
珍しいものを紹介。名古屋を中心に各地、
イベント等に出店中。
Instagram : ukigumox
※お店の情報が変更になる場合がございます。詳しくは、各店のHPやSNSでご確認ください。