アルバムは変化の意志に満ちた一枚だと感じました。制作はどういうとっかかりから始まったんでしょうか。

 まず、自分がやりたい音楽、興味のあるサウンドをとにかく作ってみようっていうのが、このアルバムの始まりでした。それが2017年の後半ぐらいだったと思います。10周年のベストが出て、横浜スタジアムのライブがあって、それが終わって次の6枚目のオリジナルアルバムに向かっていた時に、一度「作りたくなったら作る」という時期を過ごしたいと思ったんです。音楽が仕事になって10年経って、ずっと楽しくやってはいたんですけど、より創作の楽しさの始まりの形のものができたらいいなって。そうして最初に作った中に「Raspberry Lover」もありました。

そう思うようになったのは、2017年に出したベスト盤と横浜スタジアムでのライブの体験が区切りとして大きかったんでしょうか?

 そうですね。自分の作品をそこで総括できたので。5枚のオリジナルアルバムを作って、前作の『青の光景』では、最終的には全部自分でアレンジすることまでやりました。一つやり切った感じもありました。なので、次はとにかく音楽的欲求の中から生まれてくる曲たちを並べたいと思ったんですよね。作りたいものがあふれ出てくる、こぼれ落ちるような感覚で曲ができたらいいなと思って。どうやったら思う存分楽しく音楽ができるのか、そのためにどういう環境を整えたらいいのか、そんなようなことを考えていました。

なるほど。では具体的に、まずどんなことをしたんでしょう?

 まずは……何もしなかったです(笑)。「いつまでに曲を作らないといけない」という流れを、一度断ち切ったんですね。〆切はなく、でも曲は書くという。アイディアを探したりすることもせずに、普通に生活していて何かを思いつくまで、作りたくなるまで待つ、っていうのが最初でした。

『コペルニクス』の収録曲の中で、最初に作ったのは?

 最初の頃に作ったのは「Raspberry Lover」と「LOVE LETTER」、あとは「アース・コレクション」あたりですね。今回はトオミ ヨウさんとの共同サウンドプロデュースなんですが、トオミさんとプリプロを始めるようになってから「漂流」とか「Rainsongs」とか「LOST」を作りました。

前作ではアレンジまで含めて全部を自分の手で行ったわけですが、今回トオミさんと一緒にやろうと思ったのは?

 単純にトオミさんの作るサウンドがかっこいいなと思ったんですよね。そして、そんなトオミさんと自分がやったらどうなるのかな?っていう興味があった。それがきっかけですね。

収録曲の中でも「Raspberry Lover」は明確に新機軸の曲ですが、これはどういう風にして生まれてきたんでしょうか?

 この楽曲は、もともとギターのリフから書いた曲で。イントロのリフが浮かんだ時に、それに対してどうメロディをぶつけていくかを考えました。あとは、この曲に限らず、メロディをどう書くかっていうことが大きくあったんです。今の時代は音楽のジャンルによって、メロディの捉え方も違うし、それこそダンスミュージックにおいてはメロディの有り無しがわからないような曲もあったりする。自分もそれが格好いいと思う感覚ももちろんあるし、でもずっと聴いてきたメロディアスな音楽も好きだったりする。そんな中で、自分はどういうメロディを書きたいか。そういうことを思ってました。

今仰った「メロディの捉え方が変わってきている」って、このアルバムの核心的なポイントの一つですよね。特に海外のダンスミュージックの分野でそういう変化が起こっているし、ラップのフロウがどんどんメロディアスになって歌との境界線がなくなってきているような変化もある。そういう海外の音楽シーンからの刺激もありましたか?

 そういうジャンルをすごく聴いているわけではないんですけど、その影響がいわゆる歌モノの中にも入り込んできているとは感じていて。メロディはもちろんサウンドとかリズムに感動している人も多くなってきている気がするんですよね。メロディアスであるっていうことの具合が変わってきているとは肌で感じていて。それをいかに自分の音楽に落とし込むかという感覚でした。

アルバムは『コペルニクス』というタイトルで、「天動説」と「地動説」というふたつのインストゥルメンタルが頭と中盤に置かれています。この構成はどういうイメージから?

 曲のラインナップが出揃って、ある程度レコーディングも進んでいく中で「コペルニクス」というアルバムタイトルが浮かんできたんですね。それと同時に「天動説」・「地動説」という対になる二つのインストが入れられたら面白いのかな、より世界が色濃くなるのかなと思いついて。この2曲はキーも曲調も違うんですけど、同じメロディでコード進行を逆転させたものになっています。

コペルニクス』というタイトルは、どういうものを象徴している言葉なんでしょうか。

 自分の音楽の転換点になるアルバム、ここから何かが変わっていくような作品になるといいなと思っていたので。新しいサウンド感や、自分の中での気付きとか、いろんなものがこのアルバムに入るといいなと思いながら作っていました。それを象徴する言葉ですね。そのまま「転換点」ってストレートに言わずに『コペルニクス』として表現するのが、このアルバムでやろうとしていること、自分が楽しくやろうとしていること、遊びのようなものも表せるかと思って付けました。自分がメッセージを伝えようとしている時の角度とか、サウンドを落とし込む時の気持ちとか、いろんなものもそのニュアンスに入ってると思います。